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 今度はエクルーが70cmくらいの棒を2本出してきた。
「何やるんだ?」
「チャンバラごっこ」
 エクルーは棒でキジローの脇腹を軽く叩いた。
「のわっ、これ何だ」
「血のり。これでどっちがやられたか一目瞭然だろ?」
「突きもあり?」
「何でもあり」

 2人でドカドカやっているところに、サクヤがハンガーに入って来た。
「お昼、用意したけど・・・」
 血のりで真っ赤になった2人を見て、サクヤは目を回してしまった。慌ててリビングに運んで、ソファーに寝かせた。
 頭を氷で冷やして、ブランデーを3口、口移しで飲ませると目を覚ました。
「医者のくせに、こんな血、見慣れてるだろう?」
「病院や戦場なら、目なんか回すもんですか。でもここは戦場じゃないでしょう?ペイントなら青でも黄色でも他にいくらでもあるじゃないの」
「ごめん。色を変えるよ」そう言って、エクルーはサクヤのほおにキスをした。
「いいから。早く着替えてきて!その赤いシャツ、もう見たくないわ!」
 2人ともリビングから追い出されてしまった。
 着換えながら、キジローがぼそっと言った。
「お前、やっぱりサドだな」
「そう?」
「姫さんをいじめてるようで、同時に俺のこともいじめてるだろう?」
「へえ、そう。何が堪えたの?」
「まったく。虫も殺さん顔をして」

 昼食後、サクヤも一緒にハンガーにやって来た。
「私が審判するわ。そしたらペイントなんか要らないでしょう?アントン、基準を覚えて。私はこの悪ガキたちに一日中、つき合うわけにいかないんだから」
「イエス、ミズ・サクヤ」
 サクヤの審判っぷりは情け容赦なかった。
「ペイントの方がラクだったぜ」とぼやいてキジローが床に伸びた。
「もう。ちょっとその棒貸して。エクルー、行くわよ」
「姫さん、そのスカートとサンダルでチャンバラやる気か?」
「こっちが準備万端の時ばかり敵襲があるわけじゃないでしょう?素っ裸でも闘える訓練しなきゃ。始め!」
 サクヤは上段にふりかぶって構えると、ハンガーの足場をフルに活用して立体的に攻撃をしかけた。
 45秒でエクルーの上腕を叩いて棒を落とさせ、1本勝ちした。

 棒をキジローに返しながらサクヤは言った。
「短い棒なんだから、もっと踏み込まなくっちゃ。こんなの当たっても死にやしないのよ?怖がらないで間合いを詰めるのよ。1番攻撃力のある間合いで、ぼーっと立っててどうするの?相手の懐に飛び込まなくっちゃ。わかった?」
「・・・ああ。やってみる」
「じゃあ、アントン。後、お願いね」
「ラジャー、ミズ・サクヤ」
 後には床に伸びた悪ガキが2人。
「・・・もしかして、姫さんが一番サドだろう?」
「今頃わかった?」


 午後に、苗床カタパルトの相談をしにやってきたジンが、2人のトレーニング・エリアを見てすっかり乗ってしまった。
 次の日には8台の発球マシンが縦横無尽に動くようになり、棒術用にランダムに変化する足場が組まれた。1日おきぐらいに新しいアイデアを持ち込んでは、難易度を上げていった。さすがのエクルーもちょっとバテてきた。
「ジンのサドっぷりは、姫さんの上を行ってるな」
「でもグレンによると、ジンはイリスに手のひらで転がされてるらしいぜ」
「怖ろしいところだよ・・・ここは。まったく・・・俺はすっかりだまされた。お前の泣きベソ顔を見て、一肌脱がにゃあと思ってここまで遥々来たのに」
「ウソつけ。アルの絵を見て、サクヤが大人しいお姫さまだとでも思ったんだろう」
「あーあ、まったくだまされた」
 キジローは床に大の字に伸びた。