部屋割り


 結局キジローはそのままドームの客室に住み着いた。
 最初はロンの宿と行き来していたが、嵐の度に足止めをくらうし、あまり頻繁に町と往復していてドームが人目をひくのを避けたかったからだ。

 1週間もしないうちに、南部さんがキジローさんになり、キジローになった。サクヤは時々、「姫さん」と呼ばれて訂正していた。エクルーにとっても、サクヤにとっても、キジローは通りのいい、一緒に行動して楽な相手だった。ずっと外国で暮らした後、母国語で話す人間に出会ったような喜びと安心感があった。面倒なことに、サクヤは決して男性に馴れ馴れしく振舞う方ではないが、自分が男性にとって魅力的だという自覚がまったくなかった。

 というわけで、ドームの3人組は和気藹々と火種を育てることになった。もっとも、気をもんでいるのはイリスやスセリといった外野陣だけで、当の3人はのほほんと楽しそうだった。


「今日初めて気がついたんだが」とキジローが言い出した。
「うん?」とエクルーが答える。
「このドームって、まともな寝室が1コしかないのな」
「そう。俺はハンガーに置いた船のブースで寝てるし」
「サクヤの寝室ってないのか?」
 エクルーが天井を仰いだ。
「強いて言えば、温室全体・・・かな?その日、一番コンディションのいい方向向いて寝てるんだよ。星を読むのに」
「危なくないのか?あんな、半分外みたいな・・・」
「出入り自由なのは動物とイドリアンだけだ。ヨソの人間と、船はセンサーにひっかかる」
「しかし、あんな場所で・・」
 エクルーが、キジローの顔に人差し指をつきつけてニヤリと笑った。
「1番危険なのは自分だとわかってる?アプローチするのは止めないけど、無体なことしたらどうなるか覚えといてね」
「バカッ、そんなことできるわけないだろう!」キジローが怒鳴った。「俺のこと、まったく警戒してないんだぜ?うなされてても、俺の顔を見ると安心して寝てしまうんだぞ。やっとで寝てるのに、何かできるわけないだろう!」
 大声で主張してしまってから、キジローははっと我に返った。
 エクルーはふふん、と笑った。
「あんたの苦悩はよくわかった。どうやら同じ穴のムジナだな」
「同じって誰と?」
「俺とだよ。生殺しガマン大会へようこそ」
「へえ・・ガマンしてるってことは、お前も姫さんとどうにかなりたい欲望があるってことか?」
「あっちゃ悪いかな?これでも一応、男なんだけど」
「今、初めて男に見えてきた」
「それは光栄だな。では、がんばろーぜ、同志。言っとくけど、”泳げない”みたいな小細工はお見通しだからな。その肩幅で泳げないわけないじゃん」
 エクルーは手をひらひら振りながら、ハンガーに寝に行った。