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 水面の青い光の中で、キジローはサクヤの目をのぞき込んだ。
「やっぱり緑にならないんだな」
「え?」
 くるりと回って、手をつないだまま明るい湖面に出た。青く広がる湖面は、深い森に囲まれている。水際には、水没して枯れた
 木々が化石のように突っ立っていた。

「キジローさん、後ろ」とサクヤに言われて振り返ったキジローは、口をあんぐり開けた。岩山から流れ落ちる滝を背に、7匹のブロントザウルスのように首の長い白い恐竜が、じっと2人を見ていた。
「彼らが、例の”7人”よ」
 キジローは見上げて圧倒されながらも、「や、やあ、どうも」とあいさつした。
「やあ、どうも。とりあえず地面に上がったらどうだね。ゲートはもうしばらく安定しているが」
「あ、ああ」と答えて、岸に向かった。
「キジローさん」とサクヤが言った。「手を返してもらっていいかしら」
「あ、ああ。すまん」キジローは慌てて手を放した。
「今、話したのがミナト。最長老よ。彼がヤト。こっちがククリにスセリ。ヤマワロ。ノヅチ。こちらが、カリコボ」とサクヤが紹介した。
「区別つくか?」とジンがひそひそ訊いた。
「うん、しばらく話してればすぐわかる。声と性格が全然ちがう」とエクルーがにやっとした。

「イリス、御礼を言います。この子達は、ずいぶんいろんなことをあなたから教わっているわ」
 とククリが言った。その顔の周りに連れて帰って来た30匹のホタルがまとわりついて甘えていた。
「私も、友達できた。ホタルがつないで、みんなと話せた。ありがとう」イリスも笑った。

「グレン、俺たちを拝んだり、怖れたりする必要はない」とカリコボが言った。「君らは、俺たちを祀ってくれているが、俺たちは別に神じゃない。君たちと同じ、モノを食べれば寿命もある生き物に過ぎん。できることもできないこともある」
「でも、ずっと俺たちを助けてくれてた。水や食べ物を運んでくれたり、ここに避難させてくれたり」とグレンが言った。
「そう。そうして助けられることを、少し誇りに思っていたよ。すべて石の力だ。我々がこうして話せるのも、イドラの様子を知ることができるのも、ゲートを通して人やモノを運べるのも」
「そう、本当にちょっと神になったような気持で、いい気になっていたのよ。まさか、石がこんな事態を招くなんて思ってもいなかった」とスセリが表情を曇らせた。

 7人はキジローの方を向いて頭を下げた。
「本当にすまない。我々が石をイドラに置いたりしなければ、娘さんが巻き込まれることはなかった」とノヅチが言った。
「あんた達のせいじゃない。俺の・・・じーちゃんが・・・・!」とグレンが叫んだ。
「石をペトリの外に出すべきじゃなかった」
「謝って欲しいわけじゃない。キリコのことで何か知っていたら教えて欲しい。どうやったら取り戻せる?」
 7人はお互いに顔を見合わせて、しばらく黙っていた。
「キリコは船にいる。用心深く移動を続けていて、なかなか場所がつかめない。アカデミーの本体が船隊なのだ。ステーションとシャトルが2台。ステーションはシャトルに係留して移動できる」
「キリコは無事なのか?もう実験に使われちまったのか?」
「石を埋め込まれた子供は、精神的に私達とコネクションができる。あまり長時間コンタクトすると、アカデミーにここを知られる怖れがあるが・・・・どの子のことも把握している」
「・・・キリコは?」
「キリコは・・・・もう石の子供になった。脳に手術も受けていて、もう笑わない。泣かない。石と相性がいいのか、すごい力を発揮している。遠からず、実戦に出されるだろう。本当に残念だ」
 キジローの身体がぐらり、と傾いた。へたり込むように地面に座った。黙って隣りにひざまづいたサクヤにも気づいていないようだった。

「石の子供たちをここに連れて来られれば、埋め込んだ石や前頭葉リミッターをはずしても精神を損なわずに戻せるかもしれない」
 とミナトが言った。
「7人がかりでやればね」とスセリがつけ加えた。
「しかし、アルは・・・」とキジローが言いかけた。
「アルの場合は、彼が元に戻りたいという意思がなかった。自分で自分を罰するように、怒りを自分の精神にぶつけて焼き切ったのだ。他の子供も同じになるとは限らない」とヤトが言った。
「とにかく、船を十分この星に近づけてくれれば、子供たちは自分でここに飛んでこれるし、私達が運ぶこともできる。問題は、アカデミーに知られずに、どう子供たちとコンタクトを取るかよ」とスセリが言った。
「チャンスはある。あせらず、慎重に待てばきっとチャンスが来る」