スノーホワイトと7人のドラゴン


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「107全部閉じてたと思ったら、今度は一斉に全部開くなんて。この3年、こんなこと初めてだよ」とエクルーが言った。
「俺だって、17年生きてて初めてだ」とグレンが言った。
 ゲートが開いているかどうかは、一目瞭然だった。昨夜と泉の明るさが全然違う。青く輝いて、祠の上の縦穴から光が漏れている。脊梁山地沿いに、少なくとも5つ向こうの泉の光まで見えていた。

「他の苗床の定点カメラ、ご覧になりますか?」
 セバスチャンがモニターを立ち上げた。
「苗床?」キジローが訊いた。
「ペトリの植物の苗や種を保管している小型ドームだ。イドラ全体に108散らばっている。このドームも東側半分は苗床だ」
「108ってーと泉の数だ」
「そうそう。水源の近くじゃないと、育成に水を使えないからね」エクルーが説明した。
「わあ、すげえ。」グレンが感嘆の声をあげた。
「バルーンにカメラをつけて揚げてみました」とセバスチャン。

 星全体に南北に走る9本の山脈。その山脈に12ずつ泉がある。9本の青いネックレスだ。
 ひとつだけ、光っていない泉があった。ムーアが石を持ち出した泉だ。しゃれこうべの眼窩のように、そこだけ黒く沈んでいた。
 石を持ち出すのに、どれほどの危険を冒したことだろう。エクルーのようにたくさんのガイドがいたわけでもなく、たった一人で石の声に打ち勝って水面まで上がってきた。そして、その後はずっと罪悪感に苛まされて、家族に会うこともできなかった。

「イドリアンはたいてい子だくさんなんだけど、ばーちゃんの子供は俺の父さん一人なんだ。父さんが5歳の時、高熱を出して生死の境をさまよった。奇跡的に回復した時、じーちゃんが消えた。村のみんなは高価な薬の代価を稼ぐために、よその星に行ったんだろうと話してた」グレンは輝く泉をじっと見つめながら言った。
「でも、俺はじーちゃんはここにいるんじゃないかと思ってた」


 ホタル達が、一斉に騒ぎ始めた。
「イリス、本当にこいつら連れて行くのか?」とジンが聞いた。
「連れて来い、と言ってる」とイリスが答えた。
「誰が?」
「スセリとククリ」
「誰だ、それ」
「今から会える」

「そろそろだな。行こうか」とエクルーが言った。
「こんな夜中に行って、大丈夫か?灯りが要るんじゃ・・?」とジン。
「大丈夫。向こうの昼の側に出るから。これ、あっちの空の色が見えているんだよ」と泉の光を差した。

「ゲートと言っても、トビラも何もない。この泉の水面が、あっちの湖の水面とつながってるだけだ。ただし、上下逆だけど」
「上下、逆?」
「そう。この間、俺がやったみたいに頭から飛び込めば、足を下にして出られる。でもまあ、別に水面でくるっと回ればいいんじゃない?」
「ぬれないか?」
「ぬれない」

「じゃ、俺、一番」エクルーがためらいもなく、泉に足を運んだ。2、3歩、まるで水面を歩いているように見えた。青い光に包まれて、ちょっと屈んだと思ったら消えた。
「次、イリス行って。ホタル達を先に行かせて、ついて行けばいいわ。向こうでククリが待ってるから」サクヤが指示した。
「わかった」
 イリスもするりと水をくぐった。
「ジン、次行って」
「お、おう」
 ジンは水面を指でつついたり、手を差し入れたり、試すがめつしていたが、覚悟を決めて足を踏み入れた。
「次、グレン」
「うん」
 祠にキジローとサクヤが残った。
「キジローさん、先にどうぞ」
 キジローが何か言いかけたが、めずらしくサクヤがさえぎった。  「こんな時まで、レディ・ファーストでなくてけっこうよ。私とエクルーは何度も行き来して慣れてるの」
 キジローは、面食らった顔で手を振った。
「いや、そうじゃない。俺、泳げないから一緒に行ってもらえないか」
 一瞬、サクヤは口をぽかんと開けていたが、ぷっと笑った。
「ごめんなさい。他の人を連れて行くのは初めてだから、少し緊張して気が立っていたの」
 サクヤが左手を差し出して微笑んだ。
「さ、行きましょう」