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 砂塵の舞う中を、祠からドームに、ザイルを伝って戻りながら、エクルーがキジローに聞いた。
「緑、見えた?」
「え?」
「サクヤの眼の緑だよ。いつも見えるわけじゃないんだ。光源の波長とか、その時の気分とか。まあ、そのうち見えるよ」
「俺、見てたか?」
「ずーーーっとね」


 以前、サクヤの目が完全に緑に見えたことがある。

 半狂乱になって泣き喚くアルを抱きかかえながら、鈍い音を立てて爆発する客船を見ていた時だ。火が広がって、新たなエネルギータンクをなめる度に、爆破が起こる。その閃光を受けて、サクヤの瞳が鮮やかな緑に輝いた。ほおにアルの左腕から迸る血を受けて、服にも鮮血を浴びていたにもかかわらず、アルを支えるサクヤは美しかった。
 2人をシールドで守って自分たちの船に運びながら、エクルーは思い当たった。
「ピエタだ」
 不謹慎だと思ったが、見とれてしまった。アルも泣き叫びながら、サクヤの眼の緑を見たにちがいない。そのイメージを、キジローも見たのだろう。


「街に戻れない?」
「磁気嵐の強いのが来る。まあ、明日の朝には通り過ぎるが、大抵砂嵐もセットで来るから、視界5m、GPS誘導不可、頼りはソナーだけって事態になる」
「嵐が来る前に帰る」
「あと10分で嵐が来る。街まで25分はかかるだろう?」
 キジローは愕然とした。どういう星なんだ、ここは?まるで、ワナにはまったような気持だった。
「ここに泊まればいいじゃん」
「それは困る!」自分で思った以上に強い口調で言ってしまった。
「どうしてさ。客室は空いてるし、着換えくらい貸すよ?今夜の嵐はレベル6だ。そんな中、砂漠を船で横切るのは、自殺行為というより、ただのバカだ」
「だが、困るもんは困る!」
「俺たち取って喰いやしないよ?」
 取って喰うのは俺だ!と言いそうになった。