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 その時、イリスが立ち上がって奥の方に走って行った。ひとしきり、何かわからない言葉でしゃべっていたが、そのうちグループフルーツぐらいの青白いものを、身体の周りに30ばかり漂わせて戻って来た。最初、何か新手のアクセサリーかおもちゃだろうと眺めていたキジローは、そのひとつひとつがそれぞれ生きていて、別個に動いているので驚いた。
「何だ、こりゃあ。青いサンショウウオ?」
「ええ、サンショウウオっていうのが、1番近いわ」とサクヤが説明した。「この前まで、まだ孵化したてのダルマみたいな形だったの。脱皮してからえらが出てきたし、しっぽが伸びてかっこうよくなったわね」

 どうやら誉められて喜んでいるらしいのが不気味だ。近くでよく見たいのに、にょろにょろ漂ってじっとしていないので、キジローは小さな声で”ほ、ほ、ほーたる来い♪”と歌ってみた。30ばかりのサンショウウオが、全部殺到して、キジローはもみくちゃになった。
「わかった、わかった。全部、来るな。1匹か2匹でいいんだ」
 イリスが何か言って、集まっている生物をのけてくれた。気づくと、また全員の視線がキジローに集まっていた。
「何だよ。ちょっと傍で見てみたかっただけじゃないか」
「キジロー、その生き物の名前、俺、教えたっけ?」とエクルーが聞いた。
「いや、まだ聞いてないと思うが」
「・・・ホタルっていうんだ」

 これにはキジローの方が驚いた。
「いや、知らなかった。ただ、昔習った歌が、口をついて出ただけで」
「じゃあ、ついでに言うけど、サイキックの増幅装置に使われた石は、蛍石と呼ばれているんだ」
「こいつらの・・・化石なのか」
「そういうこと。今はこんなだけど、数百年生きて、数十mの巨大な姿になる」
「じゃあ、まさか・・・アルの言ってた”ドラゴン”っていうのは・・・」
「そう。こいつらの親」

”例の7人”に対して、少なからぬ期待を抱いていたキジローはかなり落胆した。
「がっかりするのは早いよ。こいつら生後20日で、空飛んで、人の言葉を理解するんだぜ。あと1年もしたらどれだけのことができると思う?」
 キジローは手のひらのまわりに、1,2匹じゃれつかせながら、
「お前ら、そんなにスゴイのか?」とつぶやいた。
”スゴイ、スゴイ”と返事が返ってきた。
「あらまあ、脱皮したらはっきり聞こえるようになったわねえ」とサクヤは感心した。
「俺、初めて聞いたよ。今まで、ホタルと話せるのはイリスだけだったのに」とジンが感動していた。
「しかし、俺だってイリスがうらやましくて、さっきから何度も話しかけて見たが、無視されたのに」

 また、全員の視線がキジローにそそがれた。
「さすが、俺が見つけてきた男のことだけはあるだろう」とエクルーが自慢した。
「しかし、ますます一般人は俺だけか」とジンは肩を落とした。
「博士号を9つも持っているのは、一般人と言わないんじゃない?」とサクヤは笑った。