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キジローはいささか戸惑っていた
キジローにとって、解決すべき問題は”キリコを無事連れ帰る”、この1点のみだった。
ところが、ここに来て見ると、いささか問題が錯綜していた。
例の”7人”は、隣りの惑星ペトリにいるらしい。イドラには107の泉があって、そこに例の石が安置されていること。108コめの石が盗まれて、星団のアカデミーに実験に使われた。これらの石はもともとペトリから来た・・・そういったことが、多少前後しつつ説明された。
・・・そして、ペトリが近々、崩壊する運命にあること。
キジローはぎくっとした。
7人のもつ石をすべて使えば、星ひとつ、吹っ飛ばせると言わなかったか?その双子星の崩壊は、自然の現象なのか?
エクルーは話を続けた。
「つまり、アカデミーのプロジェクトを突き止めて、被験体を解放するのをAとすると、ペトリの崩壊でイドラに起こる天災をできるだけ防いで、ペトリの生物をこっちに移植するのをB。この2つを並行して進めてるんだ。キジローと俺はチームA。サクヤとジン、イリス、グレンはチームBってことになるな」
「例の7人は?」
「両方だな。彼らが荷担してくれなければ何も進まない。あ、あと一人。俺らのいとこ。彼女には両方手伝ってもらう」
「で、そのゲートってのは、泉の石とどう関係があるんだ?」
キジローが訊いた。議論が止まって、全員がキジローの方を見た。
「何だよ。俺、なんかヘンなこと言ったか?」
「いや、驚いているんだよ。あまりにも的を射ていたから」とグレンが言った。
「だって、泉は108、石はひとつ盗まれて107、ゲートが107、全部閉じてるって言ってたろう」
「その通りだ。ゲートってのは、石の力を使って泉とペトリの間に回廊を開くんだ。すべていつも開いているわけじゃない。2つの星と太陽の位置関係で決まる。たいていは、どこかのゲートが開いてるんだけどね。磁気嵐で大気圏外からの侵入が難しいのに、イドリアンがペトリと行き来できたのは、だからなんだ」
エクルーは祠の祭壇に彫ってある、竜を指差した。
「例の7人は、イドリアンに”水神”として祀られてきた種族だ。原住民をあっちに避難させたり、食糧になるものを泉に届けたりして、ずっとイドラを支えてきたんだよ」
「俺だって、ついこの間まで、実在してると思わなかったよ」とグレンが言った。
「俺たち、泉をくぐって人がいなくなることを、”神隠しにあった”と呼んでた。昔はしょっちゅう、あったらしい。イモが凶作になった村がひとつ丸ごと空っぽになったり、喰うに困った家族が消えたり。でもここのところ、ぱたり、と起こらなくなった」
「ここのところっていつからだ?」とキジローが聞いた。
「108コめの石が消えた時からだよ」と、グレンはゆがんだ笑いを浮かべて答えた。