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 ドームに着くと、エクルーがキッチンからひょこっと顔を出した。
「あ、うまくキジローを拾って来てくれた?卵、卵! 他のは全部できちゃったよ」
 キジローはつかつかとキッチンに入って、エクルーのえり首をつかんだ。
「お前は何だ。姉さんをあんな町にお遣いに出して、自分はのほほんと料理か!」
「また、これか。キジロー、ちょっとフライパンだけ、下ろさせてくれ」
 キジローがえりを放すと、エクルーはフライパンとターナーをレンジに置いて、向き直った。
「で?何が問題だって?」
「あの町は女一人で歩くようなところじゃないだろう!」
 エクルーはサクヤの方を向いた。
「何か危なかったの?」
「ええと。まあ、いつも通りよ。南部さんが助けて下さったし、卵も無事だったし」
「キジロー、何か助けたの?」
「俺は卵を受け取っただけだ。」憮然と言って、視線をそらした。
「つまり、サクヤは一人でも切り抜けられたわけだ」
「エクルー!あなたったら、南部さんに失礼じゃないの!」
 珍しく強気に出て、エクルーはキジローに指を突きつけた。
「はっきり言っとく。サクヤは確かに女だけど、素人じゃない。Vxレベルのパイロットだし、ジュードーも射撃も、俺より優秀だ。マッチョなボディ・ガードなんて必要ないんだ」
 2人の間で、サクヤはおろおろした。
「あの・・・私、毎週、バザールの日に町に出るんです。イドリアンの回診日なので。それで、変な風に名物になっちゃって、ほとんど毎週、ああいう追いかけっこになるんです。でも・・・危ない目にあったことないですよ?」
「当たり前だろう!そんな目にあってたまるか!」
 大声を出して、キジローはキッチンから出て行ってしまった。
「どうしましょう?」
「俺、オムレツやっつけちゃうから、サクヤがフォローしてよ」

 キジローは、温室の隅のあずまやでタバコをふかしていた。
「よく、ここを見つけましたね。この温室、迷路みたいなのに」
 サクヤは、キジローの斜め前のベンチに座って、ふふっと笑った。
「何だかさっき、ちょっとうれしかったわ。ずっと辺境の荒れたところを廻っていたから、すっかり慣れっこになっていたけど、あんな風に誰かに心配されたり、かばわれたりする人生も幸せかも、ってちょっと思っちゃった」
 それから、ひとしきりクスクス笑った。
「エクルーでも、あんな風に言い合ったりするのね。珍しいもの見ちゃった。きっと南部さんのこと、信頼して甘えているのね。男同士っていいわねえ」

「メシー!!」エクルーが折りたたみ式のテーブルを抱えて、温室に入ってきた。
「ほら、いろいろ運ぶよ。キジローも手伝って」
 キジローは一瞬、どんな顔をしていいかわからなかった。エクルーはニヤリと笑った。
「どうせ、昨夜はろくなもん喰ってないんだろう?俺のディナーを喰いたくないか?」