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 キジローは、テントの影でその女を見守りながら、さっきの男たちがどこにいるのか注意していた。

「サクヤ、3羽のカラスと黒いクマが1匹、付いて来てるよ」
「クマの方は友人よ。まだあいさつしてないけど」
「そうかい。ここに呼んでやるかい?」
「いいえ、すぐまた会えるからいいわ」
「じゃあ、テントの奥を抜けてお行き」
「ありがとう。メドゥーラ、また来週ね」

 テントの中で、原住民が布を広げたり柴の束を摘んだりし始めて、見通しが悪くなった。そして、片付いた時には、白い女の姿は消えていた。
 しまった。3人の方も見失ったらしい。慌てて、裏の方に駆け込んでいった。
 キジローは妙な確信があった。彼女はこっちに抜けてきているはずだ。狭い路地に入ると、ちょうど女が地下室の戸から出てきたところだった。そして、キジローに眼をとめると、にこっと笑った。
「あら、クマさん」
 そこへ、3人組が追いついてきた。かなり息が上がって、イラついている。
「お嬢さん、残念だなあ。せっかくうまく逃げたっていうのによ」
「この小路は行き止まりなんだよ」
「この町は女一人で歩くとこじゃないって、教育してやらんとなあ」

「女一人じゃないぜ」キジローがぬっと顔を出したので、3羽カラスは気勢を殺がれた。
「じゃ、あとはよろしく」と女は言って、壁のステップと雨どいを身軽に伝って、屋根へ逃げてしまった。
「あっ、くそっ!!」3人組はその建物の裏に走っていった。意地でも捕まえたいらしい。

 今度も、キジローはどっちに行けばいいのかわかった。彼女は屋根伝いに、この破風作りの裏通りまで抜けるにちがいない。長屋の端まで走ると、ちょうど屋根から黒髪の頭がのぞいた。
「卵なの。受け取って」
 上から紙袋が、ぽん、ぽん、と2つ降ってきた。

 最後に紙袋を片手に抱えた女が、すたっと下りてきた。キジローがあっけに取られているところに歩いてくると、にっこり笑って右手を差し出した。
「お蔭で助かりました。南部さん、ありがとう。エクルーの姉の咲也です」

 サクヤの姿を認めて、上空で待機していたヨットが砂地に下りてきた。中には小振りのドラム管にサラダ・ボールを伏せたような、旧式のロボットが1体。
「お待たせ。ゲオルグ」
「お帰りなさいまし、ミズ・サクヤ。首尾よくミスター・ナンブとお会いできたようですね」