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少年が走ってきて、画用紙に描いた絵を見せた。
「サクヤの絵だよ。サクヤにあげて。白い花の星だよ。ドラゴンもいるっていってたよね。一緒に連れてってって言ってくれる?」
「うん。言っとく。喜ぶよ。きれいな絵だ」
クレヨンの白を使って、黒い長い髪の女のコに白いドレスと白い花冠、足元にも白い花がたくさん描いてあった。上から水色の水彩絵の具を重ねて、白いクレヨンが鮮やかに浮き出させていた。絵の下にオレンジのクレヨンでメッセージが書いてあった。
”DEAR SAKUYA, TAKE ME TO FLOWER BED WITH YOU. I'LL PICK WHITE FLOWERS FOR YOU. AL”
(サクヤへ。 一緒に花畑に連れていってね。白い花を摘んであげる。 アル)
「手紙。シスター・シーリアが教えてくれた。わかる?サクヤ、わかるかな?」
「わかるさ。いい手紙だ。きれいな絵のついた上等の手紙だ。絶対、喜ぶ」
「そして、泣くんだ」とアルが言った。チックは治まっていた。今までのふるえは演技だったのでは、と思うほどなめらかにしゃべった。
「エクルー、サクヤに言って。ムリして来ないでいいよって。俺はここでのん気にやってるって」
少年は生垣の方に走って行った。そこで振り返って手を振った。
「でも、白い花の星には壊れる前に連れてってね。約束だよ!」
そこまで言って、アルは何かに気づいたように駆け戻って来てキジローの腕をつかんだ。またチックが始まって、興奮して吃音も出ていた。
「オジ、オジさん。キリコのこと、ド、ド、ド・・・」
「ドドド・・・?」
「ドラゴン!に聞いたらいい!!キ、キリコが俺の仲間なら、ド、ドラゴンが知ってる・・・!」
少年はまた走って行ってしまった。
「ぜ・・・絶対だよ。し・・・7人のドラゴンに聞くんだ!」と言いながら。
療養所を出た後、礼拝堂の木のベンチに腰を下ろして、エクルーは両手で顔を覆った。キジローは一人分離れて座った。
「しばらく・・・こうしてていいかな」
「ああ、どうせシャトルは2時間後だ」
エクルーはしばらく口がきけなかった。キジローが何も聞かないでくれるのがありがたかった。