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「ステーションまであとどのくらい?」
「まあ、30分ってとこだな」
「キッチン、借りていいか。腹減ってて・・・」

「あの材料で、よくこれだけ作ったなあ」とキジローは感心した。
「というか、あんなにすさんだ台所はめったにないよ。せっかくりっぱな設備なのに」エクルーはぼやいた。
「とにかく、うまい。ボウズ、たいしたもんだな。仲間に入るかどうかはともかく、コックに雇ってもいい」
「もし、もう一度この船に乗ることがあったら、調味料一式、揃えさせてもらうからな」
 食べているところは、ターミナルで見かけた暗い影のような男と同一人物とは思えなかった。とりあえず、餌付けに成功したようだ。

 キジローからの連絡を待ちながら、相変わらず、エクルーはターミナルをぶらぶらしていた。相変わらず、収穫無し。

 2日後、キジローから連絡があった。
「その7人と会わせてくれないか。そいつらは、つまり透視者とか千里眼みたいなもんなんだろう?そいつらにキリコのことを聞いてみたい。それから、お前の、その記憶を失った友人にも会いたい。まだ、そのアカデミーのプロジェクトとやらに実感がわかないんだ」
「わかった。友人にはすぐ会える。ヴァッサー・ガルテンの療養所だから、日帰りできる。7人の方は・・・ちょっと遠い。ヴァルハラって知ってる?」
「あのパルサーの?」
「そうそれ。その第七惑星にイドラというのがある。そこまで、タケミナカタで来れる?フリッカZγワームホールを抜ければ、3日ってところだな。辺境航行Vクラスのライセンスある?無ければ、俺が乗せてく」
「ということは、お前、ライセンスあるのか」
「まあね」
「ふーん」
「そう露骨に、人は見かけによらないって顔をしないでくれないか」
「いや、失礼。俺も持ってるよ。だから自力で行ける。だが、そんな遠くに行くとなると、すぐにはムリだ。多分、仕事をやめんとな」
「何の仕事やってるの?」
「傭兵の派遣サービスみたいなところに登録してるんだ。軍関係の情報が入るかと思ってな。まあ、貯金はある。やめても、当面困らない」

「ええと、俺のオーナーがあんたも雇う、と言っている。すでに1人、工学屋を雇ってるんだ。住居他、いろいろ手当て付き」
 キジローの左眉が上がった。
「オーナーって誰だ?」
「俺の姉。まあ、俺は家族社員みたいなもんだけど、その工学ドクターにはちゃんと給料払ってるよ?」
「何か、うさん臭い話だな」
「まあ、うちの姉と、そのドクターにも会ってみれば?例の7人にも」
「イドラに行けば、全部、会えるんだな」
「そういうこと」
「10日くれ。そっちに行く。ヴァッサー・ガルテンは?」
「明日でどう?」

 実を言うとキジローを誘った時、それほど戦力になると思っていたわけではなかった。ただ、あんまり行き詰ってギリギリのところにいるので、ジンだのサクヤだの世間離れしたぽやんとした連中に会わせて、息抜きさせてやりたかっただけだ。娘をさらわれて3年。あんな暗い目をしてターミナルを転々としていたと思うとつらすぎる。
 しかし、結局、俺たちと行動したために、キジローは娘と再会することになったのだ。それも最悪の形で。