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キジローは鼻の前で両手を組んで、前かがみの姿勢で自分の考えに沈んでいた。
「俺は娘さえ取り戻せればいい。同盟も星団も関係ない。そのヘンな石だってどうでもいい」
目をギラつかせて、エクルーを見据えた。
「お前の仲間に入れば、キリコを取り戻せるのか?」
「それは約束できない。でも一人で情報を集めるより、確率が高くなると思わないか?」
「だが、秘密がもれる確率も上がる」
「それは心配ないと思う」
「なぜそう言い切れる!」キジローはかみついた。
「つまり、全員能力者だから。今のところ、ディフェンスもオフェンスも、アカデミーの被験者に追い越されていない」
「なぜ、そんなことがわかる!ヤツらを見たのか?」
「いや、今のところ直接、接触したことはない。でも、そういうことがわかる種類の能力者なんだ。その7人は。信じる?」
「お前がウソを言っているとは思わん。こんな手のこんだペテン、何の得にもならんだろう」
キジローはシートの向きを変えて、コントロール・パネルの方を向いた。
「少し考える時間をくれ。お前はまた、ターミナルにおろせばいいのか?」
「わかった。連絡をくれ。・・・ひとつ、聞いていいかな?」
「ああ」
「”ホモ野郎”を連発してたけど、キジローはホモ・フォビア(同性愛者嫌悪)なのか?」
「いや。軍関係にはゲイは多いし、いい友人も何人かいる。別に偏見は持っていないつもりだ。ただ・・・よく声をかけられるので、時々、防衛過剰になっちまうんだ。・・・悪かった」
「なるほど。そのストイックなところがそそるんだろうねえ」
「お前・・・やっぱり・・・!」
エクルーは両手を胸の前に広げて、どうどう、というジェスチャーをした。
「俺はヘテロです。恋人もいる。だから、2人きりの時でも警戒しなくていいよ。ただ、ホモ・フォビアは頭が固くて融通利かない人が多いから、確かめただけだ。ついでに言うと、俺もよく男に誘われる方だから、気持はよくわかる」
「なるほど、そうだろうな」
「おホメの言葉、ありがとう」
キジローがぶっと笑った。眼からギラついた光が消えて、初めて眉間のシワが取れた。
「わは・・はははは。スマン。しかし・・・お前、ヘンなヤツだなあ」
へえ、5歳は若く見える。というか、笑っていると幼くさえ見えるのだ。