4.White Flowers for You.
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俺は緑の壁に囲まれた窓も扉もないブースにいた。
大小無数のモニターがあるのに、知りたい情報を引き出せない。
ふいに、背後の壁をすり抜けて黒髪の少女が入って来た。おかっぱの髪がゆれた。一瞬、サーリャかと思った。
でも、もっと大きい。ずっと捜していた友人の娘だと気づく。
君の父さんも、隣りの船に来てる。一緒に帰ろう。
そう言おうとした瞬間、心臓に痛みが走って、気がつくと俺は床に転がって天井を見上げていた。少女が俺の顔を無表情にのぞき込んでいる。その褐色の瞳の周りが、生まれたての赤ん坊のように澄んだ青だった。
ボニー・ブルーだ。
こういうのも悪くない。これでサーリャに会いに行ける。サクヤとはしばらく会えなくなるが、そんなに長いことじゃない。
少女のブルーの眼から、一筋涙が落ちて俺のほおを濡らした。彼女の父親のことが伝わっただろうか。
悪くない。こうして少女に見つめられながら、眠りにつくのも。
ボニーの夢を初めに見たのはいつだったろう。
夢の中で俺が考えている”友人”というのが、誰のことかさえわからない。
サクヤの夢を読んでしまったのか、俺が拾った誰かの思考なのかもわからない。
それで、俺はかなり長い間、サクヤにも話さないまま、ボニーを探しつづけていた。
最初に出会った眼球の青い人間は、少年だった。
彼を追っているうちに、サクヤと二人、同時に同じ夢を見た。共有したわけでなく、2人あてに届いたメッセージだった。
夢のように美しい風景だった。
青い空、白い雲。緑の湿原に咲き乱れる白い花々。トンボや鳥の群れが空を行き交う。
そこへ腰まで垂らした銀の髪をゆらして少女が走って来た。どうやらトンボを追いかけているらしい。そしてふいに振り返ってニコッと笑うと、こちらに手を振ってまた駆け出した。
メッセージの主が言った。
「私はもう長くない。私が死んだら、あの子はこの星で一人だ。あの子は君らの血縁だろう?迎えに来てやって欲しい。この星が崩壊する前に」
声が途切れると同時にサクヤは目をさました。すぐ背後でエクルーががばっと起き上がった。
「今の見た?この星ってどこの星のことだ?」
「あなたはもう。そんな大きな身体で私のカウチに潜り込まないでって何度も言ったでしょう?」
「だって、こうしないと何の夢を見たか話してくれないじゃないか」
「狭いし、暑苦しいし、第一、カウチが壊れたらどうするの。これじゃ、何のためにベッドをあきらめたんだか・・・」
その後、何度かメッセージは届き、俺たちがその星を見つけるまで数年かかった。しかし、その銀の髪の少女を迎えに行くには、その前に解決すべき難問がいくつかあったのだ。