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 ジンとサクヤは8時間交替で、子供についていた。
 子供がぐっすり眠っているのに安心したジンは、ドームを探検してみることにした。治療槽の異常を知らせるアラーム・スティックを胸ポケットに入れた。病室と台所、リビング、トイレとシャワーはここ2日、うろうろしていたが、その奥は知らない。リビングの隅に電話ボックスのような囲いがあり、そこに入ると自動的に背後のドアが閉まった。天井から冷気が噴出してメガネが曇ってしまった。
 セバスチャンの声がして「そのまま30秒お待ち下さい・・・上着とズボンの裾をよく振るっていただけますか?では、スリッパに履き替えて、ドアを開けてください」

 ドアを開けると、いくつかのブースに分かれた実験室だった。サクヤと何体かのロボットが作業をしている。ジンが扉をコツコツと叩くと、サクヤが実験台から顔を上げて扉を開けるスイッチを押した。
「あれ、もう時間?」
「いや、まだ2時間ある。あの子はよく眠っているよ」
「ちょっと早く目が覚めたから・・・これ、やっつけちゃうわね」
「これ、何なんだ?・・・て聞いていいのかね?」
 サクヤがくすっと笑った。
「もちろんよ。あなたはチームの一員ですもの。ここのフリーザーとインキュベーターに、ペトリの生態系がすっぽり入っているの。もちろんできるだけ丸ごと運びたいけど、根付かないものもあるでしょうし・・・。植物や土壌微生物はここでできるだけ殖やして、効率よく森を作ってしまいたいの。森林は草原や岩山に比べて、環境変動を緩和するでしょう」
「しかし、苗をばらまいても、水が無ければ育たないだろう?」
「もちろん。だから、先に水を運ぶのよ」
「どうやって?」
 サクヤはニヤリと笑った。
「もちろん、あなたに考えてもらうのよ・・・と言いたいところだけど、それは別の人がちゃんとやってくれるから、大丈夫」
「どうやって?」
 ジンは質問を繰り返した。
「まあ、順番に説明するわ。ついでにちょっとしたツアーと行きましょうか?こちらへどうぞ。この防寒着とブーツ履いてくれる?」
 ラボを出ると、5重の遮断扉になっていた。背後の扉を閉めないと、前の扉が開かない。次のセルに移る度に、上から冷気をかけられた。
「大したバリアーだなあ」
「ペトリの生き物が、どういう免疫持っているか、何に弱いかまだ調査中だから。念のため。今はがっちりガードしてるけど、最終的には解放する予定」
 5番目の扉を開けると、天井の高い薄暗い倉庫のような空間に出た。一辺5mほどの立方体が積んである。
「寒いな・・・!」
「ここはー20℃に保ってあるの。この土の塊は・・・つまり苗床なのよ」
「苗床?」
「そう、中に土壌微生物を含む腐葉土と植物の苗や実なんかが入っているわけ」
「しかし、すごい数だな。これを運んで、植えつけるだけで一仕事だぞ」
「そのへんを、あなたにやってもらえないかしら?」
「俺が?」
「この土のコンテナを効率よく運んで、地面に埋め込む方法、あなただったら何か思いつくんじゃないかしら?」
「ええ?うーん、これだったら重さが150kgてとこか・・・そうすると・・・」
「苗床は、今、この惑星全体に用意してるとこなの」
 ジンは恐る恐る聞いた。
「こんなドームが、いくつあるんだ?」
「108つ」
 サクヤはにっこり笑った。