3.緑の約束     V.眠り姫


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 子供の出身地がわかったのは、2日目の午後だった。
「ジン、これ見て」
 サクヤがモニターの記事を指した。
「避難船ホランド、漂流2ヶ月経過。移民局は絶望視・・・?」
「セバスチャンが検索してくれたの。この子が乗ってた船のことじゃない?ワープの座標計が狂ってたらしいわ。銀河系内に吐き出されただけでもラッキーだったわよ。5日の航海の予定が2ヶ月以上彷徨って、着いたのがこんな磁気嵐に閉ざされた辺境の星でしょう。当局も把握してないんじゃないかしら」
「植民星SE-5から第三次避難船。同盟を支持するサリア政権と人民解放軍の間で内戦激化。西半球の3都市が居住不可能に」
 サクヤはためいきをついた。
「きっと1万年経っても、人間は同じことやってるわね。確かこの星は、軍事拠点を作る目的でムリヤリ植民化したのよ。テラ・フォーミングを短期間でやったから、大気組成まで変わっちゃって・・・ほら、ここ、読んで。在来の生物7割絶滅、初期移民は3割死亡。10年、できれば30年は、大気が落ち着くのを待つべきだったのに、どんどん人を入れちゃって。環境制御出来るドームに入れるのは、一握り。後は殺されるために連れて行かれたようなものだわ」
「まるで人民解放軍のような口ぶりだな」
「似たような植民星で、しばらく医者やってたから。この50年で一気にきな臭くなっちゃって・・・本当に何年たっても、宇宙に出ても、人間って進歩しないのね」
「結局、俺が連邦の理工研やめたのも、それが理由だ」
 と、ジンが言った。
「何もかも軍事利用に結びついちまう。表向きだけ、きれいごとのスローガンがついて来て、そのウソ臭さが我慢ならなくなったんだ」
「それで、あんな小さな町工場にいたのね」
「うん、あそこで作るものにはウソがない。楽しかったよ。だが、よくあんな所にいた俺を見つけたなあ。理工研にも知らせてなかったのに」
「そういう探し物は、エクルーが得意だから」
「確かにそうだ。大学の時、ステーション全体に散らばった研究棟のどこにいても必ずメシに誘いに来た」
「育ち盛りなのにガリガリで心配だったのよ。手料理ごちそうしてくれたでしょ?」
「ああ、不思議とうまいもんだった」
「不思議じゃないわよ。あの子いくつかのレストランで厨房に入ってたもの。私よりよっぽどうまいのよ」
「この間は、どっかの楽団に入ってたとか言ってなかったか?」
「まあ、人生長くやってるので、やってみたことのない職業の方が少ないかも。私はできること少ないんだけど、あの子は器用だし、人当たりいいしね」
「大してしゃべらないくせにな」
「警戒されないのよ。・・・ふふ、今頃、船の中でくしゃみしてるわよ」