「ミズ・サクヤ」
 円筒の上にお椀を伏せたような形のロボットが、飲み物のピッチャーと青豆のボウルをトレイに載せて病室にしずしずと入って来た。どうやら足元はローラーらしいが静かなものだ。
「あら、ありがとう、セバスチャン」
「こいつがセバスチャンか。初めて顔を見るなあ。いつも侵入許可の出迎えご苦労さん」
「こちらこそ、丁寧なご挨拶、恐悦至極でございます」
 サクヤが肩をすくめた。
「どうもプログラミングした人の好みがクラッシックだったらしくて、万事この調子なの」
 セバスチャンはなめらかな手つきで、細いアームで危なげなくピッチャーやボウルを病室の小さなテーブルに並べた。
「この身体は、本当はセバスチャンの手足のひとつなんだけど、本体の頭脳で直接オーダーを出してるから、一番近いのよね。後、端末が何人いるんだっけ」
「庭師が7人、メカニックが9人、ラボ・アシスタントが5人でございます。メカニックが2人、だんな様と航海中です」
 ジンが声をひそめて聞いた。
「だんな様ってのは何なんだ?」
「エクルーのこと。私のこともレイディとか呼ぶから、やっと直させたのよ。端末ロボットにもそれぞれ、ヘンな名前がついていてとても覚えきれないわ」
「では、何か御用があればいつでもコンソールからお呼びください」
 セバスチャンはトレイを身体に収納して、しずしずと部屋を出て行った。
 サクヤはひそひそと言った。
「とか言って、どうせカメラとマイクでモニターしてるのよ。まったく過保護というか、執事の鑑というか・・・」
「後者でお願いします。」
 と、セバスチャンの声がコンソールから答えた。
「立ち聞きするのは、良い執事とは言えないわよ」
 サクヤが脅すように言った。
「失礼いたしました。では、ごゆっくり」



 ジンはまだ声をひそめたまま言った。
「高性能なのに、外観は200年前のスタイルだなあ。あれもプログラマーの好みか?」
「最終的には選んだ私の好み、ということになるかも。完全に人間と見分けのつかないサイボットを選ぶこともできたんだもの」
「そういうことを言うとヤツが喜ぶだけじゃないか?」
「まあ、いいじゃない、たまに執事にゴマをすっても。あの顔がかわいいでしょう、オタマジャクシみたいで」
 確かに頭部に小さな丸いレンズが2つ離れた位置についていて、その真ん中に半月形のスピーカーがある。間の抜けたスマイルマークに見えないこともない。だが・・・オタマジャクシ?
「・・・あんた、それ、ホメ言葉になってないぞ」