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 2人の方に向かおうとして、フレイヤの手を離したとたん、フィールドが切れた。
 息がつまる。冷たい水に心臓がぎゅうっとつかまれる。

 アズアはぱっとエクルーを離すと、サクヤの身体をつかまえた。
”お前が守れないというなら、私が守る。サクヤもこの湖の底で眠らせる”
 そう言うと、もがいているサクヤののどと口に手をあてて何かつぶやいた。ゴボゴボと息が大量にサクヤの口からもれて、くたんと力が抜けると、そのままサクヤの身体は底に沈んで壊れた人形のように岩の上でバウンドした。
”何をした!?”
”空気を抜いて眠らせた。これからは親子水いらずだ”
”サクヤ!”
 エクルーは湖底のサクヤの身体を抱き上げて息を吹き込んだ。空気はそのままぽかっと開けたサクヤの口からこぼれて、大きなあぶくになって水面に向かう。何度吹き込んでも入っていかない。
”ムダだ。おまえは一度手を離した。もう返さない。サクヤは私のものだ”
 アズアは石たちの青い光を全身に受けて魔王のように微笑んだ。
”このバカおやじ! それでも親か! サクヤ、頼む。目を開けてくれ。俺が悪かった。こんなことになるなんて”
 何度も息を吹き込んで身体をゆすぶるが、かくんかくんと頭をゆらして漂うばかり。青白く顔にまつげをふせた顔が、ぞっとするほど美しい。

”目を開けてくれ。頼む。俺を1人にしないでくれ。”
 頼りないサクヤの身体を抱きしめて泣いた。
”ずっとそばにいる。もう2度と手を離さない”
 その首に細い手がふわっと回された。
「うん。それならいい。そばにいて」
 驚いて身体を離すと、サクヤが目を開けて微笑んでいる。
「ごめんね。私がバカだったの。これからも一緒にいてくれる?」
 エクルーは言葉が出てこない。声も出ない。
 ただサクヤを抱きしめて、サクヤの胸に顔を埋めて声も出さずに泣いた。
「君はけっこうバカだな。すぐ地上に連れ出せば良かったんだよ。こんな水圧がかかった水中で人工呼吸してどうする。こんな男に娘を預けていいのか、ちょっと不安になってきたよ」
「パパ!」

 宝石たちがゲラゲラ笑っている。頭上でフレイヤがにいっと笑っているし、アルはにやにやしている。
 スオミは涙ぐんでいるようだが、涙はすぐに水に溶けた。
「仕方ないな。みんな君の味方らしい。残念だがもう一度チャンスをやろう。サクヤを返すよ。アル、こいつは私が山ほど殴っておいたから平手をはるのは別の機会にしてくれ」
 アズアはもう一度エクルーのえり首をつかむと、自分の顔の傍まで引き寄せた。
「だがサクヤに関しては、次の機会はない。次に君が手を離したら、サクヤはこの湖の底に閉じ込める。他の男に任すなんて考えるな。君しかいないよ、このじゃじゃ馬を任せられるのは」
 宝石たちがひゅーひゅー冷やかして拍手した。
「やれやれ、疲れたな。見てみろ。今の騒ぎで天井が壊れてしまった」
 地底湖の上から日の光が差し込んでいる。
「これからは北に回らなくても直接ここに飛び込める。サクヤ、またおしゃべりしに来てくれるだろう?」
「うん。パパ、ごめんね。一緒にここにいられなくて」
「いいさ。こんなに早く花嫁のパパの気分を味合わされるとはね。サクヤ、彼も若い盛りなんだから、あんまり刺激していじめてるんじゃないよ」
「うん、わかった。反省してる。でもパパ、エクルーのキスはすごいのよ?」
「反省してるように見えないな。さあ、みんな帰って、1人にさせてくれ。私は花嫁のパパの孤独をかみしめるんだから」

 ひとしきり、「ありがとう」とか「ごめんね」とかいう言葉を言い交わしてみんなが振り返ると、アズアは以前見た時のように目を閉じて湖の底で微笑んで漂っていた。
 あんなに明るく笑いさざめいていた空間が暗くなって、ただひと筋、新しく出来た洞の入り口から射す光が頭上を照らしている。
 サクヤはもう一度、アズアをぎゅっと抱きしめると、(ありがとう、パパ。また来るね。)とささやいた。

 地底湖のせまい入り口から外に出た一同は驚いた。もう水路の乱流にもまれることはない。
 水際が広がって丸い泉になっていた。泉の岸に下りる石段まで出来ていて、洞の入り口は明るいテラスになっている。
「108個めの泉が復活したな。おまえらの夫婦ゲンカのおかげだね」
 アルがエクルーの肩をどしんと叩いた。
「すごいな。あのどつき合いのパワーを全部こっちに送ってたんだ。どうりで消耗するはずだ。アズアをけとばしてるつもりで俺はずっと土木工事をしていたのか」
「私も。冷たい水に濡れておぼれたと思ったのに、服が乾いてる。パパってすごいのね」
「うん、サクヤのパパすごい。かっこいいわ。私、絶対、アズアのお嫁さんになる!」
 フレイヤの発言に全員ぞっとした。
「サクヤ、今度からパパに会いたい時、私に頼んで。いつでも連れてきてあげる」
「フレイヤ、許さんぞ。アズアは子持ちのやもめだ。お前といくつ違うと思ってる。第一、あんな湖を新居にする気か?」
 アルがわめいた。エクルーはため息ついて、アルの肩を叩いた。
「あきらめなよ。あの人とケンカする勇気あるか? 今度はパルテノン宮殿ができるぞ? 第一、6年ぶりに会ったのに全然年取ってない。フレイヤはすぐ追いつくさ。フレイヤ、あの引きこもりのおっさんを口説いて湖から引っぱり出せよ?」
「こら、あおるな」
「そうしたら私、フレイヤをママと呼ぶことになるの?」
 サクヤの素っとんきょうな叫びに思わず全員笑った。


「何だ。何事が起こったかと思ったら、まだベロチューしただけか」
「アル!」フレイヤ以外の全員が抗議した。
「だって俺はとっくにサクヤはもうエクルーのお手つきだと思ってたよ。さすが3000年待った男」
「アルったら」
 遅い昼食を食べながら、午後の日差しに輝く岩山を眺めていると明け方感じた絶望がウソのようだ。
「アズアは君に何を言ったんだい?」とエクルーが聞いた。
「えっ?」
「ほら、君が息を抜かれて底に沈む前さ。何か言ってたろ?」
「ああ」とサクヤは笑った。
「エクルーが降参するまで目を開けるなって」
「まったく君のパパって最高だね」とエクルーがため息をついた。
「俺はこんな親娘に翻弄されて、土木工事をしたうえ、今から引越し荷物の荷解きをしなきゃならない」
「まあ、あわてるな。サクヤはここにいるんだから。当分あちこちでからかわれるから覚悟しておけよ。ジンとグレンどころか宙港まで指名手配かけたからな」
 アルがにやにやした。
「アル、何て言って回ったの?」
「エクルーがサクヤとケンカして家出したって」
「アル!」サクヤが抗議した。
「でもその通りだろ?」
「確かにね」エクルーは手で顔をおおってため息をついた。
「私も一緒に謝って、からかわれてあげる」
 サクヤがエクルーのひざに座って、両腕をエクルーの肩に回した。
「2人で笑われよう?」
「2人で祝福されるんだ」
 そう言って、エクルーはサクヤのおでこにキスをした。それから、ぎゅっと抱きしめてサクヤの顔をのせた。
「ああ、もう一度こんな風に抱けると思わなかった。何もかも失ったと思った」
「ご両人。ラブ・シーンの続きは幼児のいないところでやってくれ」
 アルの言葉にフレイヤが講義した。
「私もう幼児じゃないわ。サクヤは8つでエクルーのフィアンセになったんでしょ? 私も8つでアズアと出会ったんだから、14でお手つきになる」
 アルは紅茶をむせた。
「お嬢さん、そういうことはアズアを落としてから言えよ」
「アル、あおってどうするの。知らないわよ」スオミがたしなめた。
「いいわ。今度から惑星中探し回らなくてすむ。フレイヤがいない時は、108個めの泉に行けばいいんだ」
 アルは少しのびをして両手を頭の後ろに組むと、エクルーに向かってニヤっと笑った。
「問題解決。めでたし、めでたし」

 ヨットでトレーラーを離れる前に、エクルーはお泊まりセットの入ったサクヤのバッグをスオミに預けた。
「多分また、この先もケンカすることがあると思う。たんびに引っ越し荷造りして、土木工事しなくてすむように、保険だ」
「いつでもどうぞ。サクヤは私達の大事な姪なんだから」
 スオミはかがんでサクヤのおでこにキスをした。
「フレイヤに、エクルーとのロマンスを話してやって」
 サクヤは少し赤くなった。
「そんなに話すことあるかしら」
「何いってるの? 出版したらベストセラーになるわよ? スペクタル・ロマンス・アドベンチャー」
 エクルーがげんなりした顔をした。
「姉さんて意外とミーハーだったんだな。まちがっても出版社に企画持ち込んで、ライター雇おうとか考えないでくれよ?」
「あら。どうしようかしら。私が書くという手もあるわね」
 スオミがにいっと笑った。
「うわっ、その顔フレイヤそっくり。さすが親子」
「おホメの言葉、ありがとう」スオミはすまして、寛大なしぐさで賛辞を受け入れた。
「ごめん。俺、今まで姉さんのこと誤解してたよ。しとやかとか控えめとか形容して悪かった」
「私こそ。あなたがティーンエイジャーを押し倒せる人だとおもわなかった。頼もしいわ。お見それいたしました」
「ちぇっ、サクヤ。早く帰って昨日の続きをしよう」
「ケンカの続き?」とスオミが追い討ちした。

 ドームに戻るヨットの中で、サクヤは大きなクマを抱っこして助手席でうとうとしていた。エクルーにクマごと抱き上げられて目を開けた。
「そのまま寝てな」
 ベッドに降ろされて、寝ぼけマナコでベッドの足元にはうと、くしゃくしゃになっていた毛布とベッドの下に落ちていたキルトをひっぱり上げて広げようとした。後ろでドサッと音がしたのでふり返ると、エクルーがベッドに斜めにつっ伏していた。もう寝息をたてている。サクヤは微笑んで、自分とクマとエクルーの上に、毛布とキルトをかけた。
 エクルーの寝顔を隣に見ながら寝るのは久しぶりだ。5年ぶりくらい? 眠れるかな……と思ったが、すぐにぐっすりと眠ってしまった。


 目を覚ますと、天窓から明かりが射し込んでいる。すぐ横で、エクルーがじっと自分を見つめているのに気がついた。
「おはよう。もう朝? よく眠れた? 元気になった?」
 サクヤは20pと離れてない所にあるエクルーの顔をじっと見つめて微笑んだ。
「また二人でドームに戻れてうれしい」
「俺も」
「ぎゅっとして?」
 エクルーが腕を背中に回してくれたがサクヤが期待したほど自分の身体は包まれなかった。
「小さい時にはエクルーの胸にすっぽり入れてもらえたのに。何というか……足とか肩がじゃま」
 サクヤはもぞもぞした。
「人間ってベッドの中で向かい合わせに抱き合えるように出来てないのね」
「まぁ色々方法はあるけど……とりあえず向こうに身体を向けてみて」
 サクヤが寝返りをうつと、エクルーが背中からすっぽり身体を包んでくれた。
「これでどう?」
「うん。温かい。安心する」
 同じような状況で、昔サクヤが同じ事を言ったのを思い出して、エクルーの目の奥が熱くなった。
 ひとめぐりして、またサクヤが俺の腕の中にいる。ただ一人の女性として。
「まだ早い。もうちょっと寝な」
「うん」

 しばらくしてサクヤが身じろぎした。
「眠れないの?」とエクルーが低い声で聞いた。
「うん。何だか目が覚めたら……恥ずかしくなってきちゃって……」
「そのうち、また慣れるさ」
 しかし、エクルーの左腕を枕に、右腕でお腹を包まれて横になっているのはすばらしい気分だった。
「エクルーも眠れないの?」
「うん。でもこうしてるのはいい気分だからそれでいいんだ」
「エクルー……」
「うん?」
「昨日の続きをして?」
 意味を取り違えたりしなかった。エクルーは顔が熱くなった。
「ええと……まぁ、のんびり行こうよ」
「私、またいじめちゃった? また避難しなくちゃいけない?」
「いや……そういうわけじゃなくて。好きなショコラティエの箱を見つけて、ついフタを開けたらトリュフ30コ入りで、自分のじゃないからずっと手を出さずにいたら食べていいよ。ただし今日中に、と急に言われた気分だ」
「どうしていつもアイスクリームやチョコレートを引き合いにするの?」
「君にわかりやすいように」
 すぐ耳元でエクルーの声が響くと、何だか身体中がむずむず震える気がする。
「今の例えはよくわからなかったわ。つまり?」
「つまり、大好物を目の前に見ながら、あんまり長いことがまんしたから、どこから手をつけていいかわからない」
「決まってるわ。ピスタチオの乗ったプラリネよ」
「俺の好みをよく知ってるね」
「どこからでもいい。好きな所から手をつければいいのよ」
「そうだな。どれもおいしいに決まってるもんな」
「しかも私はチョコじゃないから、溶けなくなったりしない。何度でもキスできるの。安心でしょ?」
「ははっ、全くかなわないよ」

 かなり長い間エクルーが動かなかったので、また眠ったのかしら、といぶかしんだ。それから首すじに温かい、柔かい感触がして身体中が震えた。
 思わず目を閉じる。つま先がぴくんとのびた。
 身体の一番奥の見た事もない所にぎゅっと力が入る。
 エクルーが耳のすぐ下にキスしながら低い声でささやいた。
「のんびり行こう。どうせ今日、てっぺんまで行けない。まずステップ1だ」
 急に身体中が熱くなった。エクルーに触れているところも触れていない所も。
 首すじも耳たぶも自分で触れたことがある。でもエクルーのくちびるで触れられると、まるで自分の身体がすっかり違うものに作り変えられたようだ。
「イヤだったり、気持ち悪かったりしたら言って。すぐやめるから」
 言葉が出てこなくて、一生懸命うなずいた。
 上になったエクルーの右腕がそっと動いてひざをやさしくなでている。
 ゆっくり移動して手が太ももの内側にくる。そしてまた外側に戻って、なめらかに脇腹まですべって、またお腹に帰ってきた。
 身体中が震えてどうしていいのか、どうしたいのかわからない。
「ゆっくり息をして。ほら息を吸って……吐いて。深呼吸するんだ。発作を起こしそうだよ。やめる?」
「ううん、やめないで」
「だったら息を吸うんだ」
 必死で集中して深呼吸をした。2,3度くり返して、つばをごくりと飲む。のどがガラガラで痛いほどだ。
 エクルーの手がそっとお腹からすべって胸の下にきた。そこでじっとしている。
「ずっと触れたかった。君のすべすべな所も、内側の柔かい所も。どんな風に君に触れようが、ずっと考えてた。想像していたより1000倍いい」
「ただ触れてるだけで……気持ちいいの?」
「君は?」
「気持ちいいわ」
「俺も」
 エクルーの手が胸をそっと包む。左、それから右。指は動かさずに、ただ体温と感触をじっと味わっているようだ。
 右手がまたそっとすべってひざに戻る。今度は下になっていた左腕が胸の下にくる。服の上からでもエクルーの手の熱さが伝わってくる。
 身体がふるえて、自分のものじゃないみたい。両方の太ももをぎゅっとくっつけて首をそらせた。
 どうしてそうしたかわからない。自然にそうなったのだ。
 自分が泣いているのに気がついた。
「こわい?」
「ううん……うん、少しこわい。どうなっちゃうの?」
「少しずつ変わる」
「変わるとどうなるの?」
「つぼみが花開いて、二人で銀河を見れる」
「それはステップ20くらい?」
「いや120かな」
 そう言いながら両腕で私の胸を包んでいる。
「……遠い道のりね」
「だからのんびり行こう。……こっち向いて?」
 何とか震えている自分を励まして、身体の向きを変えた。
「さあ、昨日の続きだ」
 エクルーがそっとキスしてくれた。くちびるがやわらかく開く。甘い。また身体の芯がふるえた。
「今日はここまで。もう少し寝よう」
 身体の感覚が過敏になっていて、とても眠れないと思ったけれど、やさしくエクルーの腕に包まれてぐったりと胸に頭をのせているうちに、少しずつ呼吸が治まってきた。
「何だか溶けかけたキャンディーになった気分」
「それはいい気分?」
「ええ、すごく」
 それからエクルーが息を飲んだのに気がついた。
「どうしたの?」
「キジローにキスしてるところを見られた。夢中になって忘れてた。くそっ、くそっ」
 エクルーは枕に頭をぶつけてうめいた。2人のすぐ横にベッドにうつぶせになって、枕に顔を埋めて大きなツキノワグマのぬいぐるみがあった。
「グラン・パは喜んでくれるわよ」
 サクヤがなぐさめた。
「怒るとは思ってないけど……照れくさいだけだ」
「じゃあ、クマは解禁?」
「いや、今日はステップ1だ。服も脱がずに抱き合っただけだ。次はそうはいかない」
「じゃグラン・パには温室のカウチで寝てもらうわ。大きなサクヤの夢を見られるように」
「そうしてくれ」とエクルーが枕にくぐもった声でうめいた。

 エクルーはあわてなかった。
 自分は上半身だけ脱いで、腰より下は見せも触らせもしない。
 2人ともちっとも退屈しなかった。
 ある晩は、お互いの腕だけを讃え合う。
 指先、手の甲、手首……。上腕の内側にキスして、また指に戻る。
 次の晩は、首。前から、後ろから。いろんな角度で、いろんな強さで、皮膚と筋肉を確かめてゆく。手とくちびるで。

 エクルーはサクヤの出すどんなサインも逃さなかった。ちょっとした口調の変化、ほおの色、急に体温が上がったり、また身じろぎする様子も。
 自分をどこまで受け入れられるか、注意深く観察してじっと待った。

「映画なんかだとね」とサクヤが言った。
「うん」
「お互いに見つめ合って、ベッドルームに入った途端に引き剥がすように服を脱いで、あっという間にベッドでごろごろ転がって、次は女の人が男の人の方に頭をのせて寝てるでしょう?」
「そうなの?」とエクルーがとぼけた。
「ものの5分で終わってしまうの」
「ふうん」
「本当はその間にいろんなプロセスがあったのね」
「まあ、省略してるんだよ、大人同士の場合」
「そんなに大急ぎでベッドに入ったことある?」
「ない。相手によるさ、そんなこと。自分から服を脱いで挑発してくるような女性と付き合ったことないし」
「確かに想像しにくいわね。サクヤがそんなことしてるとこ」
「想像しなくていいよ。それに……5分で終わっちゃったらつまんないじゃん。その後どうするんだ? 残り時間はジョギングでもするのか?」
 サクヤはくすくす笑った。
「確かにつまらないかも」
「それにサクヤは初めてなんだから、飛び切りの体験にしなくちゃ」
「……あなたが退屈してないか心配だったの」
「退屈してるように見える?」
 サクヤは微笑んで、「ううん」と答えた。
「じゃ、いいじゃないか」とエクルーがまた、首すじに顔を埋めてキスをくり返した。
「実際、俺は君に夢中なんだから」