「今のイドラみたいね」
 とルーピンが言う。
「そうだね。今のイドラみたいだ。このたくさんの花も、水も、ホタル達もペトリが壊れる時、イドラに移って来たんだ」
「どうやって星を移ったの?船に乗ったの?」
 とヴァルが聞いた。ヴァルはルパの牧童をやるのに飽き飽きしていたので、いつか外の学校にいって船乗りになるのが夢なのだ。
「こんなにたくさんの水や樹を船に乗せられないよ。でもその頃、いや、もう1万年くらい前からペトリとイドラはいろんなモノが行き来してた。干ばつで食べ物がない時、大吹雪でみんな死んでしまいそうな時、イドリアンはペトリに避難したり、しばらく住んだりしてたんだ」
「どうやって行き来するの?俺、ペトリに行ってみたい」
 ヴァルは勢い込んで、訊ねた。
「今はもうダメだ。ペトリには人が住めないし、呼んでくれるホタルもいない」
「ホタルは星に飛べるの?」
「ちがうよ。ホタルは自分では宇宙を飛べない。でも人や花やいろんなものを運んでくれた」
「この子達も?頼んだらやってくれる?」
 ルーピンはお目付け役のホタルをなでながら聞く。
「まだだめだ。この子たちは小さ過ぎる。まだ60年かそこらしか生きてない。あと500年はかかるね」
「じゃあ、大婆ぁが生きてた時、そんな大きなホタルがたくさんペトリに住んでたんだね?」
「そうだ。3000年くらい生きてる長老がいっぱいいた。そして巨大なホタルが死んだ後の化石が谷を作っていた。ほら、これをご覧」
 私はルパのなめし革で作った袋から、手のひらほどの大きさの石を取り出した。ひもを弛めた途端、袋から光がこぼれ出るようだった。青白く光を放ち、表面は乳白色で明るい緑やオレンジ、赤、青、様々な色の帯が走る。
「触っちゃだめだよ。この石は力が強すぎるんだ。父さんだって、袋に入れて絶対に身体に触れないようにしてるんだ」
 私は祖母の墓石の上に水盤をおいて、その水の中に注意深く石を沈めた。。辺りは青白い光に包まれて、ランタンが要らないほどだ。懐かしい光に喜んで、ホタルが乱舞し始めた。南の森からも、西の沼からもホタルが続々と集まってくる。
「うわあぁ、すごーい」
 子供達はふたりして口を開けて、空を見上げた。
 今では1000を越えるホタルが集まって、空にゆっくりとらせん状の群れを作り旋回していた。
 口々にるーともろーともつかない音で歌いながら。

「この石が秘密なんだ。すべてはこの石から始まったんだよ」