また星が流れた。今度は天頂から10数個、雨のように光の鳥かごのように私達を包んだ。これにはホタルも喜んで、くるくる空中で回った。
「だからシレネーがここで土地に溶け込んじゃったから、ここから離れるわけに行かないんだって言ったじゃないの。この白い花はねえ、お供えして植えた花じゃないのよ。シレネーそのものなの。大婆ぁたちはそういう星の人達だったのよ」
「その話、誰に聞いたんだい。大婆ぁが死んだ時、お前生まれてなかったろう」
「シレネーに聞いたの。8つの時、ここにお花を持って来たら、シレネーに呼ばれたの。この蔓の側に手をついて、地面に髪を垂らしてごらん。地面に顔をつけて、両手をひろげてごらんって」
 私は戦慄した。ルーピンが8歳の時、行方不明になった事があったのだ。ひとりでルパを操って、放牧地から10キロも離れたこの墓地に来た。地面にうつ伏せて、眠り込んでいるところを発見された。この日を境に耳の下くらいだった薄茶の髪がうでの付け根まで伸びて、しかも青緑に輝くようになった。それからも、度々ひとりで墓地にくるので、お目付け役のホタルを一匹つけたのだ。

「ねえ、父さん。私、大婆ぁがこの星に来たのと同じ年だわ。大婆ぁの秘密を話してくれない。この青い花はペトリから来たんでしょう。ホタルもペトリから来たんだって、父さん言ったわ。でもペトリは空気も水もない岩の塊じゃない。大爺ぁは大事な大事な秘密だって言ったわ。私もぜったい他所の人に話さない。ペトリの秘密を話して」
 どうやらこの娘は、4代めにして一番祖母の血が濃く出ているようだ。祖母と祖父と友人たちの物語を伝えるのに、最適の語り部かもしれない。
「ヴァルはどうだ。秘密を守れるかい?知られたら、連邦や同盟や、アカデミー・ステーションのヤツらがこの星にやって来て、岩山を掘り返したり、先祖の墓地を荒らしたりするかもしれない。一番怖ろしいのは、お前達を連れ帰って実験に使おうとするかもしれないってことだ」
 ヴァルは動揺して、私の腕にしがみついた。尻尾の毛が完全に逆立っている。
「どうして、どうして俺達を捕まえるの?食べられちゃうの?」
「バカね、実験に使うって言ったじゃない。誰があんたみたいなやせっポチ食べるもんですか」
 強気な言葉を放っても、ルーピンのしっぽもいつもの2倍はふくらんで、ヒゲがおったっている。

「私達は、ホタルと話せるだろう。だからだよ」
 ちょうどその時、南の森の木立の上からぽっかりペトリが上った。いびつな形だが、温かいオレンジ色で明るく輝いている。
「そうだね。話してあげよう。なぜ秘密なのか、何が大事なのかわかったら、不用意に外にもれることもあるまい」
 私はしばらくペトリを見つめていた。ホタルが7匹、お互いの尾を捕まえるようにきれいな輪になってくるくる飛んでいる。このダンスはどうやら彼らのコミュニケーションらしい。その輪の中心に、まだ低い空にあるペトリが見える。
「今は、月が3つあるだろう。ペトリと、フルオール、アルビ。でも昔・・・もう60年過ぎたのか。その時までペトリはひとつの星だった。私達の住んでるイドラよりも大きな星だったんだよ。その頃のペトリといったら、そりゃあ綺麗だったんだって。大婆ぁがよく話していたなあ。湖があって、森があって、いろんな花が咲いてたんだって」