ホタルが鳴くので、口笛を吹いて呼んでやった。順番に目の周りを掻いてやる。
「いっぺんに来るな。おまえ達、しっぽを俺の顔にぶつけるなよ」
 落ち着いたのか、るーともろーともつかない声で歌い始める。
「大叔母ちゃんの花に水やっといてくれよ」

 ・・・シレネーの花スキ。蜜が甘イ。
 ・・・またシースが出来た。新しいところに蒔いてイイ?

「任せるよ。どこが花に向いてるか、おまえらの方がよくわかるもんな」
 実際、祖母が亡くなった頃には、大叔母の花はごく普通のつる草だった。今では一部が木質化してひとつのこんもりした茂みになっている。でも、草の頃と同じ花が咲いている。
 時々、草の一部が硬い殻に包まれた石のようになる。これが種のようなものらしい。時々、ホタルが新しい場所に運んでいく。蒔いても芽が出るのは20年か30年先らしい。

「今、良さそうな所に蒔いても20年後までに隕石落ちるかもしれないぜ」
 と、意地悪く聞いてみたことがある。

・・・ダイジョウブ。ここ、100年は落ちないところ。それまでに次のフェイズに育って、新しいシースできる。そしたら、またホタルが安全な場所に運ブ。

 どうやら、そういう事らしい。我々も新しい集落や放牧地を作るとき、ホタル達にご託宣をもらうようになっていた。

「父さーん」
 娘のルーピンがホタルを三匹従えて走って来た。両手にひとつずつ、薄布を貼った提灯をぶら提げている。
「走るな、走るな。転ぶと提灯が壊れるぞ」
「だって遅くなると土ボタルが隠れちゃうでしょう」
「心配しないでも、ペトリが上るまでは光っているよ。慌てないで、準備おし」
 少し遅れて、息子のヴァルがぶつぶつ言いながら追いかけてきた。
「姉ちゃん、ずるいんだよ。軽いものだけ持って、走ってっちゃってさ」
「そういうあんたは何よ、叔父さんとこのルパを借りてきちゃって。ちゃんと断ったんでしょうね?」
「ダイジョウブだよ。今夜お産するメスが2匹いるから、どっちにしろオスは離しといた方がいいんだ」
 ヴァルは手際よく、ルパの背から荷物を解いて墓の周りに並べ始めた。今年獲れたイモとウリと木の実から作った甘酒。提灯にロウソクを入れて灯を点した。灯りに釣られて、土ボタルが集まってくる。墓場に多いので嫌われることも多いが、オレンジ色に明滅する明かりはきれいなものだ。

 理屈やのヴァルが不平を言う。
「どうして大婆ぁのお墓だけ、こんなはずれにあるのさ。うちの墓は三日月湖の側にちゃんとあるじゃないか。あそこなら夏の放牧地から近いのに」
「だから何度も言ったじゃない。大婆ぁはシレネーの横に眠りたかったのよ。ふたりで故郷の話をしたかったんだわ。大婆ぁとシレネーは他所の星から来たのよね、お父さん」
「そうだ。もうその星は誰も住めなくなっちゃったんだよ。この星に来て、やっと安心して暮らせるようになったんだよ」
「じゃあ、この星が好きなんだったら僕らと同じお墓でいいじゃないか。どうして大爺ぃと違うとこに眠るんだよ」
 ヴァルは口をとがらせる。