2.ホタル鳴く宵

 北東の空を3つ、流星が流れた。大きく弧を描いて西の岩山に落ちた。
 祖父はよく、星がたくさん流れる夜には亡くなった人の魂が帰って来るんだ、と話していた。

 ・・・ばっちゃん、帰って来てるのかい?この花、ばっちゃんと同じ名前だろう?

 私は祖母の墓に、青い花を供えた。今では、西の沼地を青く染めるほど咲き乱れる花。
 祖母の生前にはごく稀少な植物だった。この花を見つける度、祖母はそれは喜んだそうだ。私は生前の祖母に会ったことがない。でもくり返し、くり返し、祖父や両親に話を聞くうちに、私の中で祖母は神話になった。大地母神のように美しく強い女性だったと。

 祖母の墓の隣りにもうひとつ墓石がある。これはまだ少女の頃に亡くなった、祖母の妹の墓だった。今では墓石が蔓に埋もれている。蔓が延びて祖母の墓も飲み込みそうだ。
 私は血が混じってもうその声を聞けないけれど、祖母はよくこの蔓の白い花としゃべっていたそうだ。

 露を求めて土ボタルが光り始めた。その光に誘われるように沼地から飛んできたホタルも舞い始めた。花の言葉はわからない私にも、ホタルの言葉はわかる。母からホタル達を紹介された時にはまだ30センチくらいのぷよぷよしたヤツばかりだったのに、今では5mを越えるものもいる。皮膚がしっかりしてきて、こんなに沼地から離れた荒地にまで飛んで来れるようになった。もっとも、ホタルは水を呼ぶので、沼地から墓地までクリークができつつある。来年の祖母の命日には、ここにこの青い花を移植できるかもしれない。

 また星が長い尾をひいて流れた。ホタルが怯えて、ぽぅぽぅ鳴き始めた。怯えるのもムリはない。連邦の地質調査局が隕石の迎撃衛星を20個ばかり飛ばしてくれているとはいえ、他の惑星の配置、彗星の通過なんかをいろいろ考慮に入れて大きなコンピューターにぶち込んでも、いつどのくらいの規模の星くずが降ってくるか予測できない。この70年足らずに2度、極ジャンプがあった。7、8年に一度は直径1キロを越える隕石が降って大火事の後、大寒波が来る。
 この星はこれだけ緑豊かな水の惑星になったにも関わらず、食物を栽培できない。我々は700年前の知識のまま、沼地に生える草の穂を食べ、荒地で薬草を集め、家畜を飼って暮らしている。連邦はこの惑星をまるごとサンクチュアリに指定したので、異星人は限られた研究者が住んでいるだけだ。