1.庭師たち

 銀河系のはずれ、連邦の調査船さえめったに来ない辺境にひとつの楽園があった。
 イドラ・・・水の惑星と名づけられた。
 かつてー600年ほど前、最初に地質調査船が来たとき、ここは確かに水の惑星だった。植民地計画が立ったほどである。
 しかしそれから100年もたたないうちに、地表水のほとんどない不毛の土地になってしまった。
 原因はイドラの二重星ーペトリである。このふたつの惑星は近すぎて、重力も拮抗しすぎていた。もう数十万年、このふたつの星はお互いにせっつき合って自転軸も公転軸も安定しないのだ。一時期は、イドラはペトリの衛星になっていた。今は、二重星として互いを巡りつつ、公転軌道を共有している。しかし距離が安定しないので、潮汐力が度々変動しては大天災を引き起していた。もっと悪いことに、この太陽系の恒星ヴァルハラがまだまだ活発な若い星で、頻繁にフレアを飛ばしては磁気嵐を起すことだ。第7惑星になるペトリとイドラでさえ、嵐の間は一切の通信が遮断される。船が着陸するための誘導さえ受けられないので、辺境の補給基地としてさえ見込み薄だった。

 それでイドラは500年ばかり、見捨てられた荒地でしかなかった。小さな宙港と、その周りの宿場町。やって来るのは、辺境に流れてきたひとクセある船乗りばかり。
 一方、荒地の岩山の周りで細々と原住民イドリアンが放牧しながら暮らしていた。
 余所者と原住民はバザールで多少の物々交換をする以外、ほとんど交流がなかった。しかしその頃でさえ、辺境探査の生物学者はこの惑星の生態系は奇跡だと感嘆していた。この300年で少なくとも5回は極点が移動している。ペトリとの配置で、保持できる大気層の厚ささえ変わる不安定な環境ながら、この星は生物相が豊かすぎる。言語文化をもつ高等生物まで生息しているなんて。

 その後、大崩壊が起こり、イドラは再びー水の惑星になった。  今、この星は「神々の庭園」と呼ばれている。大崩壊に続く隕石落下、高熱、それに続く大災害にさらされたにも関わらず、イドラは花が咲き乱れ、生き物にあふれる美しい辺境の宝石となった。
 原住生物に影響を与えないように、小さな調査団が順番にやって来たが・・・ナゾは解けなかった。
 誰がこの庭園を作ったか。
 この惑星は優秀な庭師に守られた庭園のようだ、とひとりの研究者が言った。
 そう、確かにここには庭師がいたのだ。庭師(ガードナー)であり守護天使(ガーディアン・エンジェル)である人々・・・
 その庭師たちの物語を語ろうと思う。