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 それから毎晩、夕食時にアルは現れるようになった。
「寮の食事がまずいんだ」
「でも大丈夫? 毎日抜け出して」
「うまくやってる。大丈夫」
「何の学校? 君まだ学校にあがる年じゃないだろう?」
「俺はもうすぐ8才だ。今、高校2年」
「まあ、すごい」
「本当は大学に行きたいんだけど、社会性を身につけるためとか言われてスキップを止められてさ」
「言われてって誰に?」
「俺の検査したプロフェッサー達。俺、いはゆる戦災孤児ってヤツなんだけどたまたまIQが高いんで、軍から養育金もらえてずっと寮付きの学校に行ってるんだ」

 2人はイヤな予感がした。
「今いる学校も軍の訓練技なのか?」
「うん。でも実戦訓練とかは、俺免除なんだ。頭を使ってればいいらしい。しょっちゅうあれこれ検査されるのが面倒だけど、金出してもらってるから文句は言えない」
 2人は顔を見合わせた。
「アル……その学校やめて、私達と来ない?助けて欲しいことがあるの」
「どういうこと?」

 学校をやめるようにアルに説得するのは失敗した。
「そんな陰謀があるなら、俺、探って来てやるよ」とかえって乗ってしまったのだ。
「でもアルの学校は、末端だと思う。本体がどこか知りたいの」
「末端からたどればいいのさ。そうすればあんた達のいとこがいる星のこともわかるかもしれないぜ」
「うーん。そうかなあ」
「エクルー! あなたが説得されてどうするの!危険よ。やめてちょうだい。アル、あなた私の予知夢を信じてくれないの? ただの妄想だと思ってるの?」
「だってさっきから危ないと言うばかりでどんな予知なのか教えてくれないじゃないか」
「まだ……不鮮明なのよ」
 サクヤが口ごもった。
「ウソだね。俺を信じてないのはサクヤの方だ。子供扱いして教えてくれない」
 アルは挑発するような目でサクヤを見すえた。

 サクヤは心を決めたように身体を震わせながら言った。
「あなたに会った日……ステーションが破壊されるヴィジョンに襲われた。あなたが……正気を失って、操られてステーションをへし折るのよ! その場にいた10数万人はみんな死んだわ! 誰一人、助からない!」

 アルは青ざめて、さっと消えた。
「サクヤ! 何てこと言うのさ!」
「だって、私、アルを止められないの。こんなにはっきり見えるのに……どうして止められないの? なぜ防げないの?」
 くず折れそうになるサクヤを、エクルーが支えた。
「俺、追ってみる。ショックでヤケを起こしてムチャするかもしれない。サクヤはここで待ってて。またアルが来るかもしれないから」
 そう言って消えた。