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すぐ横にエクルーの顔がある。私をじっと見つめている。
「おはよう」
「誕生日おめでとう」
「そっか、すっかり忘れてたわ」
昨夜はエクルーの変貌ぶりに感動して、オパールのプレゼントもふっとんでしまった。スカートのポケットを探ると、ちゃんと小箱があった。よかった。
一晩明けたら、何となくエクルーが元通りに戻っていそうな気がしていたが、どうやら昨夜のままらしい。黙って私の手を握ってじっと目をのぞき込んでくる。
「起きたなら、シャワーを浴びて来たら?」
「後でいい」
「じゃ、朝ご飯にする? フレンチトースト作ってあげる」
「後でいい」
少しこわくなって来た。エクルーは今まで、私を不安にさせないようにずっと軽口を叩いてたんだわ。
でも今はただまっすぐに私を見つめて、迫ってくる。少し身体を浮かせて、間近から私の耳にささやいた。
「怖かったり、痛かったりしたら言って」
そしてキス。エクルーと何度もキスしたことがあったけど、こんなキスは初めてだった。
身体中が震える。
エクルーのくちびるが、私の首や耳やのどをなぞる。
エクルーの手が私の背中を腰を足をなぞる。
今までと全然違う。これまでは私の変化を注意深く見ながら、気が遠くなるぐらいのんびり抱きしめてくれたのに。今日のエクルーは全然余裕がない。
まるでただの男の人みたい。
「息忘れてるよ。深呼吸して」
100メートル全力疾走したように息が荒い、自分が涙を流しているのに気がついた。
「ゆっくり息を吸って。怖い? やめる?」
「ううん。やめないで」
エクルーはやめないでくれた。私はきつく目をつぶっていたので、エクルーが私のどこをどう触れて、どんな風に抱き合っているのかわからなかった。ただ無我夢中でエクルーにしがみついたいた。
「サクヤ、目を開けて。生きてる?」
身体中がバラバラになった気がしたのに、ちゃんと元のままでちゃんと生きてた。エクルーも私も汗びっしょりだった。
「ごめん。あんまりやさしくできなかった」
私は言葉が出てこなくて、ただ一生懸命首を横に振った。
「大丈夫?」
今度は首をタテに振る。
「話し方、忘れたんじゃない?」
エクルーが笑っておでこにキスしてくれた。
「今度はゆっくり飛ぼう。サクヤが息の仕方、忘れないように」
今度のキスは甘かった。身体中の細胞がビリビリと緊張して痛いほどだったのに、ひとつキスを受ける度に柔らかくゆるんで融けてゆく。
どんなに融けても大丈夫。エクルーが手を握ってくれている。エクルーもすぐ隣りで浮かんでいる。2人で青空に浮かんで、雲の間を飛んでいる。
涙が止まらなかった。うれしくて、やっと安心できて。
私、エクルーの横にいていいんだわ。
もう大丈夫。2人で生きていける。