地雷



 エクルーはまたヴァッサーガルテンに来ていた。
 そしてアルに問われるまま、昔語りをしていた。

「出会った時、サクヤってどういう風だった?」
「またサクヤの話?他に聞きたいことないのか。2000年前の地球の様子とか興味ないの?行ったことないんだろ」
 自分だってサクヤにしか関心ないくせに。
「いいから。サクヤはどんな感じだった?」
「今と大して変わらないよ。もうない星の夢に翻弄されて、いつもテンパッてる感じで」
「その時もきれいだった?」
「だから変わらないって。出会った時から今までちっとも変わらない。あの時は 18だったかな? さすがにもう、18には見えないね。精神がフケたから、外見にも表れるんだ。今いくつくらいに見える? 27? 35くらいか?」

 エクルーは絶対にサクヤをほめない。”きれい””やさしい””かわいい”のような単純な形容詞さえ、エクルーの口から出てきたことはないのだ。でも言葉の端々にだんだんボロが出てきて、何かのはずみに気持ちがこぼれ出ることがある。それを指摘することに、アルは意地悪い喜びを感じるようになってきた。何せ、首から耳まで真っ赤になって、 何もしゃべられなくなるのだ。あのエクルーが。

「じゃあ、出会った時から時間が止まっちゃったの?2人とも?」
「正確には出会って少し経った時からだけど・・・星の記憶が戻ったときからだ。スパークでも起こったように、2人でシンクロして・・・思い出した。星で、2人でどんな風に過ごしていたか、何故、今地球にいるのか」
「ふうん。そして今までずっとそのままなんだ。なかなかロマンティックじゃないか。君と出会った時、僕の時間は止まった・・・よく聞くフレーズだけど、実際例を聞いたのは初めてだ」
 エクルーは、ふんと鼻を鳴らしただけで何も言わなかった。
「じゃ、出会った時、エクルーもこんな感じだったんだね?」
 アルは6フィート強ある長身の青年を見上げていた。
「いや、俺は一度、時間の流れが戻ったことがある。18の時。その時、俺は12歳の外見で、サクヤよりチビだった。一晩で18に育って・・・骨はギシギシ、関節ガタガタ・・・ひどい目に遭った」
「一晩で6年分年くったってこと? どうして?」
「サクヤが俺から逃げたから。いや、その前に俺がサクヤから離れようとしたからだな、きっと」

 アルはどういうわけか、サクヤの話をしていると発作が起こらないのだ。なのに、実際にサクヤを前にすると、爆発したようにパニックを起こしてしまう。それで、サクヤはいつも動揺してしまって、平静にアルと話せなくなる。
 だから代わりにエクルーがやって来て、サクヤの話をすることになるのだ。慎重にキーワードを回避しながら。
”きれい””やさしい””かわいい”・・・”すき”。

「いっぺんに6年取り戻して、だけどまた時間が止まっちゃったんだね?」
 エクルーはどう見ても18より年くっているように見えない。
「どうして、また止まっちゃったの?」
「逃げたサクヤをつかまえたから」
「ふーん。どうしてわざわざ。サクヤを放っといて自由になればよかったじゃないか」
 アルはじりじりとエクルーを追い詰める。
「どうしてって・・・そうしたらサクヤがひとりになるじゃないか」
「ひとりでもふたりでも大して変わらないよ。絶滅危惧種は、個体数が3000切ったら絶望的。300で事実上絶滅だ」
「でも、最後のひとりってのは、ちょっと寂しいじゃないか」
「ふーん」

 アルはいよいよ輪を狭める。
「それで、たった2人の生き残りになる覚悟をしたんだ」
「そういうことになるのかな」
「ねえ、エクルー。そういう状況の時、映画や小説だとどうするか知ってる?」
「知らない。どうするんだ?」
「2人でアダムとイブになろう、とか言って子供を作るのさ」

 やった。エクルーが真っ赤になった。すごい。襟元から見える胸まで赤い。
 この瞬間のために、アルはとつとつとした、とてもなめらかとはいえないエクルーの昔語りに付き合っているのだ。
 でなければどうして、いくらサクヤの話とはいえ、人のノロケ話に付き合わなくてはいけない?

「ぐずぐずしてるから、時間が止まっちゃうのさ。さっさと子供を作ってその子供に運命を押し付けちゃえば、まっとうな人生を送れたのに」
 エクルーは聞いていなかった。アルに背を向けたまま、礼拝堂の尖塔を眺めているフリをしている。
「だらしないなあ。俺の前では、さんざんサクヤに軽口たたいていたくせに」
 エクルーはまだ耳まで赤いまま、言葉が出てこない。アルはため息をついて、もう勘弁してやることにした。
「でもさ、なかなか楽しかったんじゃないの?2人きりでずっと旅してさ。イヤなものもいろいろ見たかもしれないけど、いい思い出だってあったろう?」
「うん、まあね」
 エクルーがやっとしゃべった。
「じゃ、良かったんじゃないの?終わりよければ、すべて良し」
 エクルーがにっと笑った。
「まだ終わりじゃないよ」